執筆者
- アルファス株式会社 CEO 廣瀬 肇
2023年6月27日より3日間、サンディエゴで開催されたFinOps Xカンファレンスに参加しました。今回はその内容と現地で感じたことをレポートにまとめています。
カンファレンスの概要
カンファレンスでは主要なFinOps組織の専門家によるキーノートスピーカーによるFinOpsのトレンド、課題、そして将来の展望についてなどの発表がありました。
FinOps FoundationのExecutive DirectorであるJ.R. Storment氏をはじめとした大まかな基調講演の内容をご紹介します。
基調講演の概要
: FinOpsが組織がクラウド経済の複雑さを乗り越えるために果たす中心的な役割についての内容でした。企業はクラウド運用において財務の透明性、業務効率性、戦略的な適応力を達成するために、正しくFinOpsを実践する必要があることを強調していました。
FinOpsの重要性の増大
:企業がますますクラウドベースの運用に移行する中で、FinOpsの重要性が高まっていることを強調する内容でした。FinOpsの習得があらゆる規模と業界の組織にとって必要不可欠なものとなっていると述べました。
クラウドの複雑さ
:企業がクラウドコストを管理し最適化する際に直面する複雑さと課題が強調されました。クラウドコスト管理の効率化には、これらの複雑さを理解することが第一歩だと強調されました。
自動化の役割
:FinOpsにおける自動化の役割に触れ、自動化されたコスト管理、レポート作成、予測が企業のエラーの軽減、時間の節約と効率化、精度を向上させると述べました。
コラボレーションの重要性
:組織内のファイナンス、IT、およびビジネス部門の間でのコラボレーションの重要性を強調し、協力の文化を築く必要性を指摘しました。
将来のトレンド
:FinOpsの領域での将来のトレンドについても議論され、機械学習、予測分析、新たに発表されたFOCUSプロジェクトがクラウドの請求データ標準化に与える影響などが取り上げられました。
アクションへの呼びかけ:参加者に対してFinOpsの原則と実践を取り入れ、利用可能なツールとリソースを活用し、日々進化するベストプラクティスに注意を払うよう促しました。
FinOpsX 2023の基調講演は、今日のクラウド主導の世界におけるFinOpsの重要性と、その分野のエキサイティングな未来を強調した発表でした。他にも多数の登壇者がいましたが、中でもHSBCのNatalie Dale氏のプレゼンテーションは、組織のFinOpsの進化について示唆に富んだ内容でした。
カンファレンスでは多くのネットワーキングの機会が提供され、潜在的なクライアントや業界の専門家と意見交換することができ、世界中の企業で採用されているさまざまな戦略について幅広い視点を得ることができました。ベンダー展示では、クラウドコスト管理から自動パイロットコスト最適化まで、さまざまな解決策が紹介されました。
FOCUSとRate Blendingについて
私が今回のカンファレンスで特に印象に残っているのはFOCUSとRate Blendingについてです。
FOCUSについて
FOCUSは FinOps Open Cost and Usage Specificationrの略称でFinOps Foundationが後援するLinux Foundationの技術プロジェクトです。このプロジェクトの目標は、クラウドの課金データに関するオープンな仕様を策定することです。つまり、クラウドサービスの利用料金や使用状況に関するデータを扱いやすくするための基準を設けることを目指しています。
現状複数のクラウドサービスプロバイダー、SaaS製品、第三者のコスト、およびその他の課金データソースにわたって、重要なクラウドの費用と使用量に関する統一的な方法がありません。これは、意思決定をする際やクラウドのビジネス価値を定量化する際の障壁となります。
このプロジェクトでは、サービスプロバイダーがコストと使用量データを統一的な枠組みで提供し、finops互換の用語を使用して生成できるようにする仕様を定義します。互換性のあるコストと使用量データセットにより、利用者は異なるクラウドプロバイダーのデータを比較しやすくなり、クラウドを使ったビジネス上の重要な判断をより正確に行うことができます。
アルファスもこのカンファレンスの直後にContributorとして参画し、FOCUS Webサイトにロゴが掲載されています
Rate Blendingについて
これはブレークアウトセッションの「Advanced Approach to Prepay Amortization and Rate Blending」で発表された内容です。
RateBlendingとは異なるクラウドの価格レートを単一で簡素化されたレートに平均化する手法です。CCoEなどの包括的にクラウドコストを管理する部門でコストの最適化を行う場合、そのままランダムに割引を適用すると一部のアカウントや部署に割引が偏ってしまいます。割引を均し、各アカウントに反映することで平等かつ透明性のある金額が算出でき、コスト分析や予測も簡素化することができます。
一方で、ブレンディングされたレートが実際に支払われている様々なレートの範囲を正確に反映していない場合に、コストを過小評価してしまう可能性などの潜在的な落とし穴についても警告があり、企業の方針やビジネスの内容によってRateBlending、CCoEが投資分の利益を吸収するなど様々な選択肢があります。
当社の提供するFinOpsをサポートするツールOCTOではこういった様々な費用の管理方法に対応しています。
カンファレンスで話題となっていたトピック
その他カンファレンスで話題となったいくつかのトピックを紹介します。
1. AIの統合
: AIをFinOpsに統合することが注目されるトピックとなりました。会話の端々でもAIに関する話が飛び交っていました。
2. ユニットエコノミクス
: FinOpsは単にコスト削減に関するものではなく、利益を増やすことも重要です。多くのセッションで、コストだけでは価値の全体像を反映できないことが強調されました。
3. 透明性の重要性
: クラウドのコストと運用に関して組織間で共有責任を促進するためには、透明性が必要とされました。
4.タグ付けの必要性
: 特に複数のクラウド環境でのコストの可視化を容易にする役割として、タグ付けの話題が重要な議論のポイントとなりました。複数のクラウド環境で一貫したタギングを維持することは課題となる場合もありますが、効果的なクラウドコストの可視化には重要です。
5. コスト管理・最適化ツールの重要性
: カンファレンス参加者とのやり取りから、クラウドコストの管理と最適化に焦点を当てたソリューションに対する市場の需要が高いことが示されました。FinOps Orgには既に100社がリストされており、リストアップされていない類似プレーヤーも3〜4倍存在する可能性があると考えられます。
これらのテーマはアルファスにおいても重要な要素となると認識しており、今後のプロダクトに取り入れて行きたいと考えています。
今回のFinOps Xは前年の3倍にも及ぶ参加者数でした。イベントに現地で参加し、FinOpsの世界での注目度合いの高まりを身を以て感じ、業界の先駆者との交流や議論、潜在的なクライアントとのつながりを築く絶好の機会となりました。